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Credit: XENON Collaboration https://xenonexperiment.org/photos/

Credit: XENON Collaboration https://xenonexperiment.org/photos/

ダークマターに関する国際会議IDM2024において、XENONnT実験が太陽ニュートリノによる原子核反跳を観測したという報告がありました。

ただし統計的な有意性は2.7σで、素粒子物理学においてよく有意とされる3σや、発見とされる5σには到達していません。今後はより統計を溜めて論文として報告されるものと思われます。

今回報告されたのは、太陽から来る8Bニュートリノがイタリアのグランサッソ山の地下にあるXENONnT検出器中のキセノン原子核とぶつかった信号を捉えたというものです。 太陽ニュートリノは既に様々な検出器で観測されていますが、この原子核反跳 (nuclear recoil) を観測したというのが新しい点です。 ニュートリノが原子核を反跳するような事象は coherent elastic neutrino nucleus scattering (CE𝜈NS, CEvNS: セヴンス) と呼ばれ、これまでは原子炉ニュートリノを使った COHERENT 実験でしか見つかっていませんでした。CE𝜈NSについては以下の記事でも解説しています。

今回の XENONnT の報告は初の太陽ニュートリノによる CE𝜈NS の観測であるとともに、ダークマター探索にとっても重要な意味を持ちます。 上記の記事でも書いたように、XENONnT のような検出器では CE𝜈NS による信号とダークマターによる原子核反跳による信号が区別できません。 これまではダークマターによる信号は太陽ニュートリノによる信号よりも多いかもしれないという淡い期待も持つことができましたが、今後はそれも許されなくなります。 ダークマターによる信号は太陽ニュートリノよりも少ないため、埋もれてしまうことになります。

しかし、ダークマターの信号を捉える手段はまだ残されています。 XENONnT のような入射粒子の方向を区別できない検出器では、1年を通じてダークマターと地球の相対速度が変わることによる季節変動を観測するという手段があります。 これを行うには検出器を1年を通じて安定的に稼動させ、辛抱強く統計を溜める必要があります。 また、入射粒子の方向に感度を持つ検出器を利用するという方法も考えられます。 この場合は太陽の方向からの信号を除くことで、太陽ニュートリノとダークマターの信号を区別できますが、XENONnTのようなタイプの検出器と比べると感度はまだまだ低い状況です。

XENONnTのWebサイトにあるように、今回の報告によりダークマター探索は新しいチャプターを迎えました。

Moreover, such a significant result opens a new chapter in the direct dark matter detection field:

今後少なくとも数年はダークマターが発見されることはないことが確定しましたが、1 太陽ニュートリノによる CE𝜈NS の観測は、人類が着実に歩みを進めていることを示す結果でもあります。 XENONnT や世界中の数多あるダークマター探索実験からの報告を引き続き待ちましょう。

関連リンク

  1. XENONグループのコラボレーターの1人である名古屋大学の伊藤さんによれば、現時点では太陽ニュートリノの事象は数GeVの質量のダークマターの邪魔にはなりますが、それより大きい質量のダークマターの場合はまだ邪魔にならないとのことです。 https://x.com/profjpyitow/status/1811259300053950571